
2026年2月4日に開催された「越境社員カフェ第14回」。
今回はいつもの事例紹介とは一味違う、「番外編」として開催しました。
テーマは、「働き方の新しいスタンダードと越境社員ドットコムの目指す未来」。
これまでの活動を通じて見えてきたこと、そして私たちがこれから「越境社員」という働き方を通じてどんな社会や未来を作っていきたいのか。
今回はあえてゲストをお呼びせず、越境社員ドットコムの運営メンバーが中心となり、現在地と未来像についてカジュアルに語り合いました。
「越境社員」ってこれからどうなっていくの?
運営側はどんな想いでこの活動をしているの?
これからの「働き方」の未来はどう変わる?
といったトピックについて、参加者の皆さんとフリーディスカッションの時間も多めに取りながら、ざっくばらんにお話をしました。

1971年生まれ。神奈川県藤沢市出身。鎌倉高校、早稲田大学を経てカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)株式会社へ入社。
13年間の会社員生活(転職経験なし)を経て、2008年にハワイに会社を設立。時間、場所や組織に縛られない働き方を追求し、ノマド、リモートワーク、ワーケーションを採り入れた働き方を継続して実践中。週1社員をコンセプトに、同時並行で複数の企業のコンサルティングや事業立上げを推進するパラレルワーカー。会社員(CCC)時代には、ツタバ(TSUTAYA×スターバックスのBook & cafe)を企画しプロデュースした実績を持ち、それが現在の掛け算コンサルティングのベースとなっている。
イベント冒頭では、宮川さんより「安定とチャレンジは二者択一ではない」という考え方が示されました。フルタイム雇用を前提とすると、新しい挑戦に踏み出す余地は限られます。一方で、転職や独立によって安定を手放すことも、すべての人にとって現実的な選択肢ではありません。
そこで提案されたのが、「週5日勤務を4日に減らし、4日は雇用契約による安定を確保しながら、残りの1日でチャレンジする」という働き方です。
重要なのは、これが単なる副業の推奨ではなく、企業が関与し、個人の挑戦を制度として支える設計であるという点です。個人の自己責任に委ねるのではなく、組織として挑戦を後押しする姿勢が強調されました。
議論の中では、長期間同じ組織に所属し続けることによる構造的なリスクについても言及されました。
組織の内部では、外部では当たり前とされている価値観や常識が通用しなくなり、次第に内部論理が強まっていきます。その結果、外部との共創が難しくなり、組織全体が内向きな状態、いわば「鎖国化」してしまうリスクがあります。
越境社員は、こうした状況に風穴を開ける存在です。
外の環境で得た視点や感覚、異なる価値観を組織に持ち帰ることで、個人の成長にとどまらず、組織全体の健全性や柔軟性を保つ役割を果たします。越境は個人の挑戦であると同時に、組織にとっても重要な投資である、という点が印象的に語られました。

イベント後半では、都市部企業と地方自治体・地域組織がそれぞれ抱える構造的な課題が話されました。
都市部企業では、経験豊富なミドル・シニア人材が多く存在する一方で、活躍の場が限られているという課題があります。
ピラミッド型の組織構造の中では、役職や新たな挑戦の機会が徐々に減り、意欲や能力を十分に活かしきれないケースも少なくありません。
一方、地方では人口減少や人材不足が深刻化しており、専門的なスキルや外部の知見にアクセスしにくいという課題を抱えています。地域の中だけで完結しようとすると、どうしても人材の選択肢が限られてしまいます。
こうした双方の課題に対して、「移住」という大きな意思決定を前提とするのではなく、今の所属を維持したまま、片足を外に出すというソフトランディング型の関わり方が、現実的で持続可能な解決策になり得ることが語られました。越境社員は、都市部と地方を緩やかにつなぐ存在として位置づけられています。
議論を通じて一貫して強調されたのは、越境社員は個人の副業や自己研鑽にとどまるものではなく、組織として設計・支援すべき人材施策であるという点です。
会社が制度としてバックアップし、人事や経営が関与したうえで目的や期待値を明確にすることで、個人の挑戦は一過性の取り組みではなくなります。越境経験を通じて得られた視点やスキルは、個人の成長にとどまらず、組織へと還元され、結果として組織全体の活性化につながっていきます。
さらに、このような取り組みが進むことで、社員一人ひとりのキャリア自立が促されるだけでなく、人事部門における配置や育成の負担軽減、新規事業や外部とのアライアンス創出といった副次的な効果も期待されます。
越境社員は、個人・組織・地域の三者にとって価値を生み出す、持続可能な人材活用の仕組みとして位置づけられました。

企業側の視点としては、シニア人材に関するコストの問題も共有されました。希望退職や退職金の上乗せ、再就職支援などに、多くの企業が多額の費用を投じています。
1万人規模の希望退職を実施したケース(日産自動車、パナソニック等)では、その金額は極めて大きなものになります。
こうした費用を「社員に辞めてもらうための後ろ向きなコスト」として使うのではなく、最初から外で活躍するための費用として設計した方が、費用も低く抑えられ、より効果が高くなる、とのコメントがありました。
越境社員はコスト削減策ではなく、人材への投資として捉えるべき取り組みです。
質疑応答では、次のような質問が寄せられました。
「地域が求めている人材のスキルの傾向はありますか。人材マッチングの要素もあると思いますが、需給バランスが気になりました。」
この問いに対して示されたのは、地域が求めているのは、必ずしも「スキルが非常に高い人材」だけではない、という点です。
たとえば、関係人口を広げたい地域では、人を呼び込める人脈や、人と人をつなぐ力が重視されます。また、地域の名物や新しい取り組みを生み出したい場合には、特定分野の知見や経験が求められることもあります。
一方で、能力が高くても、地域でうまく活躍できないケースも少なくありません。
そうした場合に共通しているのが、人や地域そのものへの関心が十分でないことです。
地域では、スキル以上に、「この地域に興味を持ってくれているか」「短期的な関わりで終わらせず、長期的に関わろうとする持続的な熱量があるか」が重要になります。
よくある失敗事例として挙げられたのが、企業・地域・本人の間で期待値の調整が十分にできていないケースです。そのため、マッチングの際には、単に条件を当てはめるのではなく、面談を重ねながら、関わり方や役割を丁寧にチューニングしていくことが欠かせません。

実際には、地域や人に対して興味や熱量を持っている人の方が信頼関係を築きやすく、結果として地域で成果を上げやすい傾向があります。こうした人材を企業内で人事が意識的に選定することは、地域にとって価値があるだけでなく、社員の活躍の幅を広げるという点で、企業側にとっても大きなメリットがあります。
そのためには、「人とつながることが好きな人」「社内外にどのような人材がいるのかを把握し、適切につなげられる人」といった視点での人選が重要になります。
越境社員の取り組みは、企業内に眠っている人材の可能性を可視化し、活かしていくという意味で、タレントマネジメントの高度化とも深く結びついています。
また、関係人口は一気に増えるものではないという意見も共有されました。重要なのは、関わるための入り口を丁寧に設計し、まずは接点を持つことです。そのうえで、時間をかけて関係性を深めていくことで、無理のない関与が生まれていきます。
最初から移住や定住を前提とするのではなく、関わりやすい形から関係を築いていくことが、結果として持続的な関与につながるという考え方が印象的でした。
越境社員カフェは、個人のキャリア形成、企業の人材戦略、地域の持続可能性を同時に考える実践的な場となりました。安定を手放さずに挑戦すること、個人に任せきりにせず組織が支えること、そして関係人口を時間をかけて育てていくこと。そのための事例づくりは、すでに動き始めています。
本イベントが、越境社員という取り組みを次の実装フェーズへと進めるきっかけとなることを期待しています。

自社の社員を越境させたい企業様