【イベントレポート】― 香りとコミュニティで新規事業に挑むリアルな越境ストーリー

2026/3/6

今回のイベントには、ライオン株式会社と株式会社KaleidoPathの二足の草鞋で活動する清水寛太氏が登壇。同氏は2024年度に社内起業家育成プログラムの審査に参加し、ファイナリストとして決勝を経て採用・参画した後、同プログラムを通じて事業を立ち上げました。

このプログラムは「SSIモデル(Structured Spin-In)」と呼ばれる仕組みで、スタートアップを社内外で効率的に立ち上げ、グループ会社として展開することを目指しています。社外のメンバーも参画できる体制を整えており、社員はいわゆる「両利きの経営」を実践する場として機能しています。

〜登壇者プロフィール〜

清水 寛太(しみず かんた)氏


株式会社KaleidoPath 代表取締役

埼玉県出身。早稲田大学大学院 先進理工学研究科応用化学専攻修了後、ライオン株式会社に入社。衣類用液体洗剤「NANOX」の開発や、日立社との洗濯機コース開発に携わる。
また、経営に直接提案し、問いを立て学び合う場「LION ACADEMIA」を立ち上げ代表を務めたほか、共創空間の活用によるオープンイノベーション推進、共創フロアのコンセプト設計、新規事業開発、香りと行動の研究(感性工学)による行動デザインの実践など幅広く活躍。その後、新規事業開発を行いながらベンチャー企業などと複業もこなす。

現在は、ライオン株式会社からの「出向起業」という制度を利用し、株式会社KaleidoPathを起業。「楽しく、その人らしいかっこよさが滲み出るように生きていく人を増やしたい」という想いのもと、コミュニティを香りで盛り上げる事業を展開している。

カレイドパスの事業内容:「香りでコミュニティを盛り上げる」

登壇者は自らの事業を一言で「コミュニティを香りで盛り上げる」と表現しました。具体的な取り組みは以下のとおりです。

これらをグループ会社としての主力プロダクトとして展開しており、香りを軸としたコミュニティ形成が事業の核心となっています。

なぜ「香り」に着目するのか

嗅覚が持つ強力なメカニズム

登壇者が「香り」に着目する理由のひとつは、嗅覚が持つ独自のメカニズムです。視覚・聴覚と比べて、嗅覚は記憶と感情に直接結びつきやすいとされています。

こうした「香りによる記憶の呼び起こし」は、ブランド体験やコミュニティの結束を強める上で強力なツールになり得ます。

「第三のメディア」としての香り

目と耳に溢れるコンテンツが飽和状態にある現代において、香りは「第三のメディア」として注目を集めています。

5G環境の普及とともに香りのデジタル配信の可能性も議論されており、モビリティや新しいテクノロジーとの融合が進みつつあります。ポスターや広告媒体においても、香りを取り入れた表現が増えてきているといいます。

なぜ「コミュニティ」に着目するのか

登壇者自身もコミュニティを運営しており、「あったらいいよね」という段階から少しずつ社会的な価値として認識され始めていると実感しているといいます。

WHOも指摘するように、複数のコミュニティを持つことは個人の幸福度向上につながるだけでなく、教育・雇用・イノベーション・経済など社会全体に多面的なインパクトをもたらします。デジタル技術の進展により、リアルで一度も会わずとも深い関係を築ける時代となり、新しいコミュニティが生まれやすい環境が整いつつあります。

新しい働き方とキャリア設計:社内起業家という選択

ライオンでの働き方と転機

登壇者はライオン株式会社に在籍しながら、副業も積極的に行っていました。同社はフルフレックス制を採用しており、「5時〜10時は副業、10時〜15時は別の仕事、15時からライオンの仕事」といった柔軟な時間設計が可能だったといいます。

好奇心が旺盛でさまざまなことに興味を持つ同氏にとって、この環境は非常にマッチしていました。

そして2024年、新規事業コンペへの参加が転機となります。「ライオンという看板は大きく、それを外すのはしんどかった」と率直に語りつつも、「経験を経て、使えるものは使おうと思った」と前向きな姿勢に転換していったといいます。

「自分だからこそできる仕事」への思い

「何かを残して死ねたらいい」「自分だからこそできる仕事をしたい」——そうした思いが、社内起業という選択肢を選んだ根底にあります。

ライオンのような大企業では、どれほど優秀でも経営に関わるまでには20年近くかかることも珍しくなく、抜擢されなければ難しいのが現実。

しかし社内起業の仕組みを通じれば、早い段階から経営視点を持ち、「一つの立場を自分で作る」という経験ができます。こうした機会を得られることへの感謝も、登壇者は繰り返し述べていました。

心理的安全性とアイデアの関係

「追い込まれないほうが発想はしやすい」「心理的安全がある環境のほうがアイデアが出せる」——登壇者はこう語ります。

「死なない環境は大事」という言葉には、起業における現実的なリスク管理への意識が込められています。

単純に独立起業した場合と比べると、「飢え死にはしないが、大金持ちにもなれない」というトレードオフはあるものの、安心感の中でこそ創造性が発揮されるという自己分析は、多くの人が共感できるものでしょう。

全てを捨てて起業することへのリアルな葛藤

「全てを捨てて起業できていたか、と問われればできていなかった」と登壇者は率直に言います。チャレンジを決意したのは30歳ごろのこと。

今の時代、早くからすべてを賭けて起業できる人はすでにやっている——そのリアルを踏まえた上で、「自分にとって今できる最善の手段として、社内起業という形が一番合っている」という結論に至ったと語りました。

SSIモデルのメリットと課題

メリット

課題・制約

まとめ

「香り × コミュニティ」という独自の切り口で新しい市場を切り開こうとするカレイドパスの挑戦は、社内起業という枠組みの中で、リスクを取りながらもリアリスティックな姿勢を貫く好例として参加者に響いたことでしょう。

「世代を超えた働き方の多様化」「デジタルとリアルの融合」「コミュニティが持つ社会的価値」——これらのテーマは、これからの時代を生きるすべてのビジネスパーソンに問いを投げかけるものでした。

自社の社員を越境させたい企業様