
越境社員カフェは、「大都市と地方、企業と地域など、境界を越えて働く人々のリアルな事例を共有し、新しい働き方のヒントを得る場」として、越境社員ドットコムが毎月開催しているコミュニティイベントです。
普段は東京・大手町の三菱地所のスペースで、毎月第1水曜日のお昼の時間帯に開催していますが、今回は初めて東京を飛び出した「地方開催編」として、大分県別府市のB-biz LINKと共催という形で実現しました。
別府の地元企業の方々や関係者が集まり、トークセッション(約1時間)と立食形式の交流会(約1時間)という構成で行われました。

宮川 久史|株式会社越境社員ドットコム 代表取締役
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)株式会社に1995年から13年間勤務し、TSUTAYA×スターバックスの「ツタバ」などの事業を企画・プロデュース。2008年にハワイで起業し、以来「週1社員」というスタイルで複数の企業と同時に関わるパラレルワーカーとして活動。自身の経験をもとに「越境社員」という働き方を広めるべく、越境社員ドットコムを立ち上げる。

末崎 博樹|別府市 文化国際課(前B-biz LINK)
2021年からB-biz LINK(一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォーム)に所属し、観光・インバウンドや地域ビジネスの創業支援、ワーケーション推進、関係人口づくりなど多岐にわたる事業に携わる。2026年4月より別府市文化国際課へ異動。越境社員カフェ(大手町)には複数回登壇した経験を持ち、B-biz LINKでは実際に越境社員の受け入れにも取り組んだ。

冒頭、宮川から参加者へ問いかけが行われました。「大分から出たことがない方は?」「九州から出たことがない方は?」——その問いに手を挙げた方が複数いる一方で、福岡に住んだことがあるという方も多く見受けられました。
大分に限らず地方でよく聞かれる「仕事がないから都市部へ出る」という声。しかし末崎さんは「実際にはいい企業も、面白い仕事も、大分にはたくさんある。知られていないだけ」と語ります。
別府市立命館アジア太平洋大学(APU)の学生が別府を好きになりながらも、「仕事がない」という理由で東京や海外へ出ていく現実は、情報の非対称性と受け入れ環境の整備が課題だということが浮き彫りになりました。
「離れるか、残るかの二択ではない」——これが今回のイベント全体を貫くテーマでした。

越境社員ドットコムが推進する「越境社員」という働き方の定義は、シンプルです。
正社員として1社に属しながら、週1日・月2〜3日程度、別の会社の仕事にも関わる働き方。
フリーランスや個人事業主の副業とは異なり、会社組織として越境を推進する点が最大の特徴です。宮川は「副業が苦手な人でも、会社が背中を押してくれることで一歩踏み出せる。個人の副業では切り離されがちな会社のリソースを使いながら動けるのも強み」と説明しました。
宮川自身は13年間のサラリーマン経験の後、2008年にハワイで起業し「週1社員」という働き方を実践してきました。
しかし「日本人には適度な安定を担保した状態でないとなかなかリスクを背負ってチャレンジするというスタイルはフィットしにくい」と感じ、現在のサービス設計に至りました。
具体的には、週4日は本業(雇用契約)、週1日は副業(業務委託契約)という2本立てを推奨しています。雇用契約と業務委託を組み合わせることで、労務管理・社会保険・税務のそれぞれで合理的な設計ができるメリットもあります。
「安定とチャレンジ、いいとこ取りの絶妙なバランスが、日本人には一番フィットする」と宮川。

末崎さんが在籍していたB-biz LINKでは、2024年7月から越境社員ドットコムとの取り組みを開始。都市部の社員がリモートで関わることのできる業務を切り出すため、一泊二日の合宿形式で業務の棚卸しを実施。その中から29個の業務を洗い出し、週1日リモート中心で担えるタスクとして整理しました。
宮川は「業務を切り出す作業は、やってみると意外と整理できていないことが分かる。自分たちだけだと難しいが、外からの視点でコミュニケーションしながらやると進む」と振り返りました。
現在は都市部の現役の広告代理店の社員が月4日程度の業務委託として、別府地域の観光資源・文化資源を活用したインバウンド向けツアー造成に関わっています。「本人が本当に楽しそうにやってくれている。報酬以上のパフォーマンスを発揮してくれることが多い」と末崎さんも語りました。
「都市部では越境する人が増えている。しかし地方側の受け入れ体制が追いつかないと、せっかくの機会を逃してしまう」と宮川は強調しました。
末崎さんも「週1日でこんなに高い能力の人が関わってくれるのかと驚いた。都会では当たり前のことが地方ではできていなかったりして、そこから気づきが生まれる」と実体験を交えながら語りました。
また、大分県の初任給が東京都を上回るというデータにも触れ、「大分の企業が人材確保のために真剣に取り組んでいる証拠でもある。越境社員の受け入れという新しい選択肢と組み合わせることで、さらに可能性が広がる」と締めくくりました。

参加者から「会社の人事はこういった制度にどう反応するか」という質問が上がりました。
宮川によると、前向きな反応が多い理由のひとつは「ポジション不足の問題」。大企業ほどピラミッド構造が明確で、能力があっても活躍の場が限られる社員が多い。越境社員の仕組みがあることで、外部で処遇・活躍の場を提供できるという点が人事にとって大きなメリットになるといいます。
一方、人事ローテーションが頻繁な企業では、担当者自身が腹落ちしにくく、取り組みが進みにくい傾向もあるとのこと。「まず一社でもうまくいけば横に広がる。最初のハードルをどう超えるかが鍵」と宮川は話しました。

今回の越境社員カフェ 地方開催編では、大分という地から「働き方の選択肢を広げる」というテーマが、非常にリアルな課題として語られました。若者の流出という問題は、「仕事がない」という単純な話ではなく、企業・行政・個人それぞれが新しい形を模索することで変えられるものだという手応えが、参加者との対話の中から生まれました。
越境社員という働き方が地方でも広がっていくためには、受け入れ側である地方企業・自治体が「一度やってみる」という一歩を踏み出すことが重要です。B-biz LINKとの事例のように、外からの視点と対話を通じた業務整理が、その入り口になります。
越境社員カフェは、引き続き東京・大手町にて毎月第1水曜日のランチタイムに開催予定です(5月はGWのため5月12日(火)の開催)。オンライン参加も可能ですので、ぜひお気軽にご参加ください。

主催: 株式会社越境社員ドットコム
共催: B-biz LINK(一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォーム)
会場: Garraway0(大分県大分市府内町1丁目1−12:トヨタカローラ大分運営)
自社の社員を越境させたい企業様